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自分のままで「親」にもなれる〜小山健「お父さんクエスト」書評

小山健さんの「お父さんクエスト」を読んだ。

息子が1歳になったころのことだ。

とても良かった。

夫にも勧めると、時々笑いながら読んでくれた。

お父さんクエスト

お父さんクエスト

試し読みページはこちら→http://www.webasta.jp/serial/otousan/

子どもが欲しいけど、色々考えてしまって不安なカップルがいたら、私はこの本を渡して、2人で読んで話し合うといいよ、と伝えると思う。

この漫画は、作者の小山健さん自身が

妻(さちこさん)の妊娠中のこと、生まれた長女(ちーこちゃん)を夫婦で育てている日常を、夫であり父の目線で切りとったものだ。

絵はふわっとデフォルメされていて、可愛い。

内容には露骨に大人向けの話題もあるのだが

気分を害することなくなんとなく読めてしまう。高度な比喩のよう。

この漫画の素晴らしいところは、育児を扱っているのに、「夫婦」が主役であることだ。

作中の健くんとさち子さんの生活は、

妊娠中の体調や、子どもの成長によりそうだけでは全くない。

仕事もするし、友達にも会うし、気まずいケンカもする。

娘が生まれると、視点がかわる、というテーマの話がある。

しかし、可愛い女の子の写真を見たときに、

男性として心惹かれる気持ちは父になってもなくならない、というシーンが私はとても好きだ。

健くんはこのことを「アプリが増える感じ」と表現している。

可愛い女の子が好きな男が、父になったらそれを忘れるわけではない。そのことは、女性もまた同じように、母になったらそれまでの自分自身を失うわけではないことを示唆している。

母になった女性自身が語る育児体験は、しばしば、プロジェクトXのような

「苦難を乗り越え、滅私の思いで家族に尽くし、子どもの成長が生きがい」

という物語になりがちな傾向がある。

それは、女性に「素晴らしい親」の理想を押し付けてきた世論のせいでもあるし、長く「育児に専念する母」が女性の主たる職業だったからだと思う。(高度経済成長期を中心としたそのような時代は、父である男性も文字通り「仕事に専念」してきただろう)

そういう物語が好きな人はそれでいい。でも、時代が変わり、女性の職業も生き方も多様化した現在、産前の自己の職業や志向やライフスタイルをすべて忘れて、世間が求める「素晴らしい親」になるだけでいい、と思うことは難しい。子どもは欲しいけど、「素晴らしい親」にならなきゃいけないなら、無理だから諦めようかな、という人も数多く居ると思う。 健くんとさち子さんの生活は、そういう不安を忘れさせてくれる。子どもを愛おしく思い、子どもと共に生きようとする意志があれば、今の自分のままで、親になれる。現実的な苦労はもちろんあるけれど。

私が、いまのところ親という業に押しつぶされずにすんでいるのは

誰も「親はこうでなければならない」という型を押し付けてこないからだと思う。

お父さんクエスト

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